外科医になって思うこと

こんにちは、こしゃるです。

私は東京に家族を残して群馬県内で単身赴任生活をしている40代の外科医です。

ところで皆さんは、「外科医」にどんなイメージをお持ちでしょうか?

怖そう? 仕事がきつそう? お金持ち?

患者やその家族として、外科医と接したことがある方は想像しやすいと思います。でもそれは患者や家族に対しての、外向きの顔かもしれません。

私たち外科医も一人の人間として、実に多くの経験をして様々なことを考えながら診療にあたっています。そしてひとりひとりの外科医が育って来た環境が違うように、病気や患者に対する考え方もそれぞれ違う、ということも良くあります。

私も20年ほどこの仕事を続けて来て、沢山のことを学び、嬉しい思いも悔しい思いも山ほどしてきました。そしてなんといっても、外科医はやりがいのある魅力的な仕事だと思っています。

しかし今、外科医を志す若手が年々少なくなっているのです。近年はライフワークバランスや働き方改革、女性医師の活躍などを背景に、旧態依然とした昭和の外科医的な働き方が好まれなくなったせいかもしれません。

ここでは、私のこれまでの経験や独断と偏見により、外科医の魅力について語ってみたいと思います。

今の時代に誤解を招くような表現があるかもしれませんが多めに見てください

外科医が減っている!なぜなのか?

まずは外科医の仕事について、内科医(ここでは内視鏡やカテーテルなどの手技を行わない内科医)と比較しながら紹介したいと思います。

外科医の仕事の中心は、なんと言っても「手術」です。多い病院ではほぼ毎日、少なくとも週に2〜3回は手術室で、切ったり、取ったり、つないだり?するのが我々のメインの仕事です。この他に、病棟で術後の患者の診療をしたり、外来の患者を診たり、医局で書類仕事をしたりという仕事もあります。さらには夜間当直をしたり、緊急手術のために呼び出されたりと、患者がいる限り夜を徹して働くこともあります。

診療科によっては当直や緊急手術が全くないところもありますが、やはり内科医との相違点は「手術があるかないか」ということになります。

そして「手術がある」ということが外科が敬遠される原因ではないかと思うのです。

手術があるから外科は嫌われる?

手術は例外を除いて、共同作業であり実地学習です。つまりほとんどの場合、手術は2人以上の医師が協力して執刀する必要があり、教科書や教則本のみでは技術を習得することができないわけです。

これは、知識を身につければ1人でもすぐに診療を行うことができる内科とは大きく違うことです。

そしてこのことが外科医の修練を時間のかかるものにしています。つまり若いうちは多くの手術に参加して、まずは見て手術を覚えて、徐々に前立ちや簡単な術者を経験する。次第に先輩医師に指導されながら術者経験を増やしていき、いよいよ一人前の外科医として独り立ちする。この過程が順調に進めば良いのですが、施設の集約化が進んでいない日本では多くの手術を経験するのに、どうしても時間がかかってしまうのです。

 

※前立ち:執刀医の「前に立って」手術を手伝うをする第一助手のこと

※施設の集約化:同じ疾患の患者を一つの病院に集めて集中的に診療を行うこと

 

長時間の手術も多く、手術の種類も多岐にわたるため自然と労働時間は長くなり、厳しい労働条件と思われてしまうわけです。

実際に私がまだ10年目くらいまでの若い頃は、朝6時台に病院に行き、朝の患者の回診をしてから朝のカンファレンスに出て、手術に入って終わるともう夕方。そこから夕方の回診や会議に出て、次の日の朝のカンファレンスの準備をして帰るのは24時くらい。ここに当直や緊急手術もあると、もう家に帰るより病院で寝た方が楽!ということになり数日は病院で過ごすなんてことも日常茶飯事でした。

そして専門医の取得に長い年月が掛かるのも事実です。医師になってから、基本となる外科専門医を取得するのに5-6年、さらに上のサブスペシャリティ領域の専門医(消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科など)を取得するのにさらに5-10年掛かるので一人前になった頃には40歳近くになることもザラです。

 

外科医は修練に時間がかかる!長時間労働は当たり前!

多くの先輩外科医は私よりももっと大変な状況で仕事をしていたに違いありません。しかしこの状況では、外科医の成り手がいなくなり医療体制が崩壊する!ということで、その後何年もかけて労働環境はかなり改善してきました。

まず2016年から新専門医制度が始まり、現在では多くの手術症例が経験できる大きな施設でトレーニングすればサブスペシャリテ領域の専門医を取得するまで、最短8年前後で完了するようになりました。

また、医師の働き方改革を目の前にして、これまでは「奴隷以下」と言われてきた労働環境も、最近では当直明けは昼には帰宅出来る、休日出勤は当番制、時間外手当もしっかりもらえる、といった効率的な働き方に変換してきています。

さらに手術そのものも、患者にとっての低侵襲化、手術機材や止血剤の進歩、手術技術の向上などによって、手術そのものの難易度は上がっているものの、術後管理はよりシンプルになり医師も残業や緊急コールなどの負担は減っていると思います。

私個人としては、外科医の技能習得にYoutubeなどの動画サイトも一役買っていると思っています。これまでは、手術室という限られた環境で上司の技を盗むことで技術を習得してきましたが、これら動画サイトに普及によって、主に海外サイトでその道の達人の新しい術式を見ることが出来るようになりました。

外科医の働く環境は改善している!

このように外科医をとり巻く環境は、昔に比べてかなり改善していると思うのです。しかし、いまだに困難な手術はあるし、鍛錬無くして技術の向上はありません。外科医は技術を磨くために努力を怠ってはいけないし、手術を成功させるためにはその周辺の内科治療についてや薬剤についてもしっかり勉強する必要があります。

女性の活躍についてもまだまだ課題があります。今や医学部入学者の約半数が女性ですが、外科専門医全体に占める女性の割合は10%ほど、私の専門とする領域ではたったの1%に過ぎません。産休や育休を経てもキャリアを継続できる労働環境や専門医制度が望まれます。

誤解を恐れずに言うならば、外科医は生涯成長し続けられる仕事だと思います。薬剤や手術器具、技術の進歩に追いついていかなくてはならないし、手術部の状態は患者によって毎回同じではありません。簡単な手術などないのです。でもそれだけに上手くいったときには、大きな達成感を感じるのです。

外科医をやっていて最もやりがいを感じるのは、手術がうまくいって患者が元気に退院して行くことです。退院後初の外来で患者の元気そうな姿を見て、この上なく安堵を感じるし、これからも続けていこうと思えるのです。

外科医は成長し続けられる、やりがいのある仕事!

今日は外科医の仕事に対する思いを語ってきましたが、いかがでしたか?これからも良い外科医になるために努力して行こうと思います。そして外科医を志す若い医師を応援したいと思います。

ではまたー

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